生命発生のメカニズムを一分子生命ビッグバン仮説はどのように説明するのか

初めに

地球上のあらゆる生命は、たった一つの自己複製可能な光学活性である有機分子から進化しました。地球上に生命をもたらしたたった一つの分子の登場前に、実はこの分子を地球上に初めて送り出した代謝テンプレートが存在します。この代謝テンプレートに焦点をあて、地球に初めて生命が発生したプロセスとメカニズムを解説します。

索引

(1)地球に生命が発生する前の下準備

ニワトリが先か、タマゴが先か

この地球の全ての生命体は、たった一つの自己複製可能な光学活性である有機分子から進化したと主張するのが一分子生命ビッグバン仮説です。

この仮説を受け入れるだけで、これまで謎であるとされてきた生物学上の様々な難問に簡単に答えることができます。

ちなみに一分子生命ビッグバン仮説にいう一分子は、「自己複製可能」な性質を備えていますから、単純なアミノ酸ではなかったと思われます。

実際は、原初生命の最初の一つといえる、一分子生命ビッグバン仮説にいう一分子が地球上に生まれる前に、この一分子を世の中に送り出すシステムが登場しました。

ニワトリ(代謝系)が先か、タマゴ(一分子)が先か、と問われると、ニワトリ(代謝系)が先でしょう。

自己複製可能な一分子を実際に世の中に送り出した代謝系、これが最初に存在した、というのが一分子生命ビッグバン説の立場です。

ただこの代謝系は、たった一つ(一系列とか、一種類という意味ではなく、文字通り一つ)しかなかった、というのも一分子生命ビッグバン説の前提です。

もし二つ以上あったとしたら、地球上の生命に多様性が生まれるからです。

なぜ全ての生命のタンパク質はL-アミノ酸からできているのか。なぜタンパク質を形成するアミノ酸は20種類程度しかないのか(確率論としてはアミノ酸の種類は数百万以上あるシナリオもあってもおかしくない)、なぜ自己複製システムはDNA(一部RNAが関与)の一種類しかないのか、なぜDNAの対塩基はA(アラニン)、T(チミン・・一部ウラシル)、C(シトシン)およびG(グアニン)という少ない数しかないのか、なぜDNAの二重らせんは右巻きなのか。

これらの問題は、一分子生命ビッグバン説が登場するまでは、全ては深い謎であるとされてきました。

けれども生命体がたった一つの分子からスタートしたと仮定すれば、全ての多様化の要素が初期段階で排除されるので、生命体に使用されるアミノ酸がL体に限定されたとしても不思議でもなんでもありません。

一つから進化したから、かならずL体かD体のどちらかに決定されるのです。アミノ酸の種類がすくないのも、一人が着る服はせいぜい20種類で足りたからです。生命の複製システムがDNA一種類に依存するのも、始まりが一分子であったから、二種類以上のシステムまでは必要なかったのです。DNAの二重螺旋が右巻きなのも、一分子のたった一つの性質に適合させるためであったから。

つまり、一分子生命ビッグバン説が唱える通り、たった一つから地球上のあらゆる生命が進化したため、理論上あったはずのあらゆる多様性が初期段階で、ことごとく、排除された。これがこれまで解くことのできなかった問題の全ての答えです。

(2)一分子を送り出した代謝系(Mother Template)の構造

一分子を送り出した代謝系(Mother Template)の構造

タマゴ(一分子)を地球上に最初に送り出す前に、ニワトリ(代謝系)が存在しました。このニワトリのことをMT(Mother Template)と呼びましょう。

もちろん、このMTはたった一つしかありません。このMTが具体的に何であったかは想像に頼るしかありません。けれども一分子生命ビッグバンにより最初に生じたアミノ酸の性質から、このMTが備えていたはずの性質が分かります。

図1 アミノ酸の構造

アミノ酸は、正四面体の構造をもっています。中心に炭素原子があり、アミノ基(NH2)、カルボキシル基(COOH)、水素基(H)およびR基(このR基の違いにより、アミノ酸の構造に違いがでます)があります。

図2 地球上に最初に登場した、たった一つの代謝系テンプレート構造(MT構造)

上記の図2に示すように、地球上に最初に登場した、たった一つのMTは、アミノ酸構造のうち、中心に炭素原子を収める炭素受容部を持ち、アミノ基(NH2)受容部、カルボキシル基(COOH)受容部、および水素基(H)受容部を持っています。

それぞれの位置で中心炭素原子に対して、アミノ基、カルボキシル基および水素基を結合させる反応を起こさせる場を提供するのが、このMTの性質です。

中心炭素原子に対して、アミノ基、カルボキシル基および水素基の相対構造が決定できれば、これでL-アミノ酸が生成します。R基の種類が変わることにより、多種類(せいぜい20種類で十分)のL-アミノ酸が生じます。

一分子生命ビッグバン説の中核となる考え方は、たった一つのテンプレートであるMTによりL-アミノ酸が生成され続けた点にあります。

二つ以上のテンプレートが自然発生したとするなら、なぜL体のみのアミノ酸が生体のタンパク質を形成するアミノ酸としてデファクトスタンダードを取ったのか説明することができないからです。

(3)一分子生命ビッグバンの始まりとは?

代謝系(Mother Template)の仕事はひたすらL-アミノ酸のみの提供

地球上に最初に誕生した代謝系のMTの仕事は、ただただひたすらL-アミノ酸を提供することでした。

産生されたL-アミノ酸は、あるものは何も生命の活動に関与しなかったものもあったでしょう。無意味な反応を行い、それ以上何も進展のないユニットが生成されたこともあったでしょう。しかし産生されたL-アミノ酸が互いに反応するうちについに地球上に初めての有機物が生成します。

それがたった一つの自己複製可能な光学活性である有機分子、一分子生命ビッグバンの引き金になる分子です。

この分子は、少なくとも最初のたった一つのテンプレートであるMTと同じ機能を有していました。

図2に示した、L-アミノ酸の生成機能を持っていました。

L-アミノ酸の生成機能を有する一分子が生成した後は、MTの反応と同様な反応を経てL-アミノ酸が大量生産され始めます。

そしてその中からまたMT機能を持つ有機分子が生成されたことでしょう。

以降は爆発的に無限複製が始まり、炭素・水素・窒素・酸素源となる原料がつきない限り、L-アミノ酸の供給が途切れることはありません。

こうして産生されたL-アミノ酸は互いに反応しペプチドを経てタンパク質を形成したことでしょう。

そのタンパク質の中にはMT機能を有するもの以外にも、いわゆる酵素等の機能を持つものも現れたことでしょう。

そしてより複雑で制御された構造を複製再現できるようになりました。

こうして、地球上の生命が育まれてきたのです。

(4)一分子生命ビッグバンの証拠

地球上の生命のタンパク質はMTに由来する構造特徴を持つアミノ酸に由来する

生命のタンパク質はアミノ酸から形成されています。このタンパク質は(ごく少数の例外を除き)20種類のL-アミノ酸から形成されています。

これらのアミノ酸には、光学活性でないもの(つまり、右手型・左手型の区別がないもの)であるグリシンを除き、全ては右手型・左手型の二種類が存在します。

地球の生命に使用するアミノ酸にどのアミノ酸を使用するのかを指定する設計図が仮に存在したとします。

この設計図がきちんと機能していれば、タンパク質を構成するアミノ酸は、実は、一つの種類で右手型を使うか、左手型を使うかが決定されていればよく、違う種類のアミノ酸は右手型であっても左手型であってもよいのです。

例えば、二種類ある光学活性体の右手型・左手型のうち、アラニンは右手型のみを採用し、アルギニンは左手型のみを採用し・・・といった具合に、右手型・左手型のうち、どちらを使うかを設計図により厳密に規定しておけば、生命に使用するアミノ酸の全てを左手型に限定する理由が全くありません。

誤解を避けるために、念のために説明しておきますが、一つのアミノ酸について、右手型と左手型のうち、一方に決定しないのはだめです。

例えば、アミノ酸であるアラニンについて右手型と左手型のいずれを使ってもよいと仮定すると、タンパク質のうちアラニンのある場所でタンパク質の折れ曲がり構造が変化します(右手と左手の違いに由来するからです)。

そうすると、最終的に形成されるタンパク質の高次構造が同じではなくなります。

ただ、タンパク質の高次構造を一定に保つ観点からすると、20種類のアミノ酸のそれぞれの立体構造をL体のみに限定する必要がありません(確率論的選択説)。

それぞれのアミノ酸一種類ごとにつき、左手型か右手型かの一方に設計図上決めておけば、全部のアミノ酸についてL体に限定しなくてもタンパク質の高次構造は同じになるからです。

まれに地球上の生物がL-アミノ酸のみを使用している理由を、L型かD型の一方に限定しないと、タンパク質の高次構造が同じでなくなるから、と説明する場合があります。

しかしこの説明は十分ではありません。タンパク質の合成に使用されるそれぞれのアミノ酸について、L型かD型のいずれか一方に決めておけば(つまり混線使用さえしなければ)、タンパク質の高次構造は同じになるからです。

タンパク質の高次構造を保つために、地球上の生物がL-アミノ酸のみを使用していると考えるのは少々説明が雑です。

タンパク質の高次構造、すなわち立体構造を一定に保つために、全てのアミノ酸がL型に統一されたのではありません。最初からL-アミノ酸しかなかったから、タンパク質の高次構造は一定に保たれてきたのです。

ところで一分子生命ビッグバン仮説によれば、地球上の生命に使われる20種類のアミノ酸の立体構造は、α炭素原子に対する、アミノ基、カルボキシル基および水素基の相対位置は全て同じであることを予想します。

図1で、α炭素原子をR基側から(つまり上から)みたときに、時計回りに、水素基、カルボキシル基およびアミノ基の順に配列されているはずです(一分子生命ビッグバン説)。

なぜこうなるか、というと、全ては、たった一つの代謝系MTからアミノ酸は合成されてきたからです。そして自己複製することのできる地球上に最初に現れた一分子も、このMTの性質を受け継いでいるからです。

一度、実際に生命体に使われているアミノ酸の立体構造がどうなっているか、ぜひご自身の目で確かめてください。

上記の確率論的選択説と一分子生命ビッグバン説のどちらが正しいか、分かるはずです。

もう一つ、念のためにいっておきます。例外的に構造がL型でないアミノ酸がタンパク質に使われている例はあります。

けれどもこの例外は、生命発生後、生命の主流ではなく、傍流に現れた例外事例です。L型でないアミノ酸の事例は決してデファクトスタンダードを取ることはありませんでした。

この理由も、もうおわかりですよね?

地球上に最初に現れた、たった一つの代謝系MTと同じ性質を持つ、たった一つの、自己複製可能な光学活性である一分子から、地球上のあらゆる生命が進化したからです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

Written by

日本弁理士会所属。ファーイースト国際特許事務所のオーナー弁理士。商標出願件数8年連続・上位5位以内のたった一つの特許事務所。大阪大学大学院理学研究科修了。フジテレビ(とくダネ!)、テレビ東京(WBS)等出演多数。著書「社長、商標登録はお済みですか?」(ダイヤモンド社)も好評発売中。

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